上腕部にある長管骨の中央付近で起こった骨折を骨幹部骨折と呼びます。交通事故では、バイクに乗っていた際の事故において手や肘をついたとき、転落などによって直接上腕の中央部に外力が加わって発生しています。

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このような骨折の場合には、横骨折が多くなっており、外力が大きい場合には粉砕骨折になることがあります。手をついた場合は、螺旋骨折や斜骨折を起こすことがあります。関節部から遠いため、関節の機能障害を伴わないケースが大半ですが、上腕骨骨幹部骨折においては、橈骨神経麻痺を伴うケースが多く見受けられるため、注意が必要です。橈骨神経は、上腕骨骨幹部をらせん状に回っているので、骨片によって圧迫を受けると麻痺を起こしやすくなっています。また、骨折部は、痛みや変形、皮下出血、圧痛、異常な動きが現れます。

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骨折部の上と下の筋肉の力によって、骨片がずれ、短縮していきます。橈骨神経麻痺が起こると、下垂手と呼ばれる手首や指が伸ばせなくなる症状が現れ、さらに、腕を回して手のひらを上へと向ける回外運動もできなくなります。XP撮影を用いて骨折した位置と、その骨折型を確認できれば診断は簡単にできます。診断と同時に神経麻痺の有無もチェックします。

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具体的な治療法は、手術ではなく保存療法が原則として採用されています。完全骨折でずれが認められるときは、吊り下げギプス法という方法を用います。これは、ギプスを骨折した部分のやや上部から肘を90度に曲げた状態に巻き、包帯を手首に付けて首から吊る方法です。神経麻痺は一過性のもので回復が期待できることが多いため、まずは保存療法を用いて骨折の治療をしていきます。回復の状況は、針筋電図や神経伝導速度などの検査をして検証していきます。

橈骨神経は、頚椎から鎖骨の下を走行し、腋の下を通って上腕骨の外側をぐるりと回って外側から前腕の筋肉と伸筋に通っており、手の甲の皮膚感覚を伝える役割を持つ神経です。

橈骨神経の障害が引き起こされる部位は、腋の下と上腕骨の中央部と前腕部分の3つです。交通事故においては、上腕骨骨幹部骨折、上腕骨顆上骨折、モンテジア骨折(橈骨頭脱臼を伴う尺骨骨折)などで発症します。上腕中央部の麻痺が多くみられるのが特徴です。手のひらは問題ないが手の甲がしびれる、特に手の甲側の親指・人差し指の間が猛烈にしびれるといった症状があります。さらに、手首をそらす筋肉が正常に働かないため、手関節の背屈が出来なくなり、親指と人差し指を使って物を上手につまむことが出来なくなって、手は、下垂手(drop hand)変形をきたします。

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橈骨神経は、手の甲側の親指から薬指までを支配領域としているため、この部位の感覚を失うという症状が現れます。

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診断は、上記の症状による診断や、チネル徴候などのテストに加え、誘発筋電図を用いた検査も有効です。チネル徴候とは、患部を打腱器で叩いて、その先の手や足に電気が走ったような痛みが出るかどうかを検査する神経学的な検査方法のことで、Tinel徴候、チネルサインと呼ぶこともあります。

治療法は、圧迫による神経麻痺であれば、自然に治癒していきますので、手首、手指の関節の拘縮を防止するために、リハビリでストレッチ運動を行っていきます。カックアップ、トーマス型の装具の着用や、低周波刺激をかける、ビタミンB12の投与を実施していきます。

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カックアップ装具             トーマス型装具

まれに、骨折部分で末梢神経が完全に断裂してしまっていることがあります。完全に断裂するということは、知覚と運動機能は完全麻痺するため、皮膚を切開して神経を縫い合わせることになります。手術用の顕微鏡を用いて細い神経索を縫っていくので、手の専門外来のある病院で手術を受けることになりますが、予後は不良です。

後遺障害認定のポイント

① 粉砕骨折の場合なら、偽関節で8級8号の認定の可能性、保存療法を実施した場合では、上腕骨の変形で12級8号の認定の可能性がありますしかし、一般的な横骨折の場合では、偽関節や肩、肘の機能障害は考えられません。骨折の形状と骨癒合は検証する必要がありますが、後遺障害が残る可能性は低い部位です。

② 橈骨神経が断裂して発生した橈骨神経麻痺が認められる場合は、神経縫合術をするよりも、症状固定として後遺障害申請を優先すべきと言えます。なぜなら、神経縫合術を行ったとしても完全治癒は期待できないためです。完全な下垂手は、足部の腓骨神経麻痺と同じく、手関節の背屈と掌屈が不可能となり8級6号が認定され、不完全な下垂手だとしても10級10号の期待が出来ます。

完全な下垂手となった時に神経縫合術を行い、不完全な下垂手に改善されて10級10号と認定されても、日常生活への支障は完全な下垂手と大きな違いは無く、損害賠償金だけが下がってしまうという結果になるのです。