1 事故発生

運転者が対向車を避けようとしてハンドルを切った際に、車両が道路から逸脱して畑に進入するという事故が発生しました。
この事故により、後部座席に同乗していた80代の女性が、第3胸椎棘突起骨折、第4胸椎椎体骨折、第4胸椎両側上関節突起骨折の傷害及び歯槽骨骨折等の傷害を負いました。

2 相談・依頼のきっかけ

被害者は、日頃から同居する家族の家事全般を担っていましたが、本件事故による受傷のため、長期間の入通院を余儀なくされました。
症状固定後、後遺障害等級の事前認定の結果、脊柱の変形障害について第6級5号に該当するものの、既存障害(10年ほど前の圧迫骨折)を理由に、第8級相当の既存障害による加重障害と判断されました。
その後、保険会社との示談交渉を進めていましたが、保険会社からの提示額は、家事従事者であることを認めず、後遺障害慰謝料の算定においては既存障害分(8級に対応する額)をそのまま控除する形式的な計算を前提とした低額なもの(630万円)であったため、適正な賠償を求めて当事務所にご依頼いただくこととなりました。

3 当事務所の活動

当事務所の弁護士は、既存障害(既に治癒していた古い圧迫骨折)について、症状固定に至るまでの長期間、日常生活及び家事労働に何ら支障がなかったことを主張し、自賠責保険の認定基準に基づく既存障害・加重障害の機械的な控除をそのまま適用すべきではないと主張しました。
また、歯牙障害についても、事故前から喪失していた歯があったことを理由に後遺障害としては認定されなかったものの、本件事故により新たに7本の歯を喪失し、義歯の不安定による症状が残存していることから、後遺障害慰謝料の加算事由として評価されるべきであると主張しました。
保険会社との交渉ではこれらの主張が十分に受け入れられず、再度の提示額は1089万円にとどまっていたため、依頼者の同意を得た上で、訴訟を提起しました。

訴訟においては、入院期間、症状固定時期、休業損害の有無、後遺障害等級及び既存障害の評価方法等、ほぼ全ての損害項目が争点となりました。
とりわけ、保険会社の弁護士は、被害者の既往の腰痛や膝の治療歴を理由に、本件事故前から日常生活に支障があった旨を主張し、休業損害や後遺障害の評価を強く争い、既存障害7級で算定すべきとして、弁護士介入前の提示額よりもさらに低い金額の賠償で十分であると主張してきました。
当事務所の弁護士は、医療記録の記載を詳細に引用しながら、退院後の治療経過や、既存障害と本件事故による症状との違いを丁寧に主張立証するとともに、被害者の実際の生活状況を裏付ける陳述書等の証拠を提出しました。

4 当事務所が関与した結果

審理の結果、裁判所は、「既存障害については基礎収入の減額事由として評価した上で、後遺障害慰謝料の算定に当たっては既存障害による減額を行わず、本件事故により生じた胸椎骨折の程度(既存障害を除いた変形の数値)に応じて第8級相当として評価する」という内容の和解案を提示しました。

しかし、保険会社の弁護士は、この和解案について、後遺障害慰謝料についても既存障害相当の減額を行うべきであるとして、当初提示された内容での和解に応じませんでした。
そのため、和解が成立せず、証人尋問の手続が実施されることとなりました。
当事務所の弁護士は、ご家族の証人尋問において、既存障害が本件事故のはるか前にすでに治癒していたこと、本件事故による受傷内容及び後遺障害の内容などを述べてもらいました。
証人尋問を経て、最終的に、保険会社の弁護士は、裁判所が当初提示していた内容と同額での解決金の支払いに応じることとなり、和解が成立しました。
解決金2000万円の支払いを受ける内容で和解が成立し、当事務所介入前の保険会社の提示額(既払金を除く630万円)と比較して、約1370万円の増額となりました。
主な損害項目における当事務所介入前の保険会社の提示額と解決結果は、次のとおりです。

主な損害項目 当事務所介入前の
保険会社提示額
解決結果
休業損害 0円 208万円
後遺障害逸失利益 0万円 489万円
傷害慰謝料 124万円 224万円
後遺障害慰謝料 477万円 913万円

【獲得額に関するご注意】
解決事例のご紹介においては、獲得額(獲得合計額)を記載させていただいておりますが、保険会社から医療機関に対して直接支払われる治療費等を含めない金額となっております。
他の事務所のサイトでは、こうした治療費等についても獲得額に含めて、金額を大きく見せている例が散見されます。
しかし、こうした治療費等はお客様の手元に残るものではなく、サイトを閲覧する方に誤解を与えかねないという点で、不適切な表記であると考えております。
そこで、当事務所では、お客様の手元に支払われる金額を獲得額として記載させていただいております。

5 解決のポイント(所感)

既存障害のある被害者に後遺障害が生じた場合、自賠責保険の認定基準では、既存障害の等級と現存障害の等級との差により、機械的に賠償額が計算されます。
しかし、既存障害が症状固定に至るまでの長期間にわたり日常生活に何ら支障を生じさせていなかったような事案では、そのような機械的な控除を行うことが必ずしも適正な賠償とはいえません。

本件では、医療記録を精査し、既存障害の内容や本件事故前後の生活状況を丁寧に主張立証したことにより、形式的な計算によらない賠償額を実現することができました。
また、本件は、裁判所から提示された和解案について、保険会社が一度は応じず、尋問手続にまで至ったという、交通事故の訴訟としてはあまり多くない経過をたどった事案でもあります。
しかし、証人尋問を通じて、こちらの主張の正当性を改めて明らかにしたことにより、最終的には当初の裁判所の和解案に相当する内容での解決に至ることができました。

既存障害がある場合の後遺障害の評価は専門的な検討を要しますので、後遺障害の認定結果に納得できない場合や、保険会社の提示額に疑問がある場合には、お早めに交通事故に強い当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。