交通事故の被害に遭った場合、衣服・眼鏡・時計など身に着けているもの(携行品)や車内に積んであるもの(積載物)が損傷することがあります。
このように携行品・積載物が破損した場合に、賠償を受けられるかが問題となります。
 

1 賠償請求の可否

交通事故の被害に遭った場合、衣服・眼鏡・時計など身に着けているもの(携行品)や車内に積んであるもの(積載物)が損傷することがあります。
このように携行品・積載物が破損した場合に、賠償を受けられるかが問題となります。

1 賠償請求の可否

交通事故により携行品・積載物が破損した場合、事故による損害であると言えますので、賠償を請求することは可能です。

ただし、交通事故に破損したという因果関係があることが必要です。
この点の立証については、破損した携行品・積載物の写真などが有力な証拠になると考えられます。
また、破損した携行品・積載物自体が因果関係の立証に役立つこともありますので、捨てずに保管しておくことをお勧めいたします。

なお、示談成立後に携行品・積載物の破損による賠償請求をしても、認められない可能性が高いですので、携行品・積載物の損傷の有無は事故直後に確認しておくようにしましょう。

2 損害賠償の金額

携行品・積載物の破損による損害賠償の金額は、修理が可能であれば修理費、修理が不可能であれば時価額となります。
ただし、修理が可能であっても修理費が時価額を上回る場合には、全損として時価額(および廃棄費用)の限りで賠償請求できるにとどまります。
ノートパソコンが損傷した事案で、パソコン本体の時価額に加え、データ復旧費用の賠償を認めた裁判例があります(東京地方裁判所平成17年10月27日判決)。

積載物が商品である事案で、委託を受けて運送中の商品の外箱に明らかな破損がなくとも、中身が破損している可能性があるとして、被害車両所有者が運送委託契約に基づき全商品を買い取ったうえで処分した際の買取価格の賠償を認めた裁判例があります(大阪地方裁判所平成28年4月26日判決)。
また、商品が破損していなかったとしても、販売するためには検査が必要となるところ、検査費用が商品の価格よりも高額となる場合には、裁判例では、商品の価格(および廃棄費用)の賠償が認められています(名古屋地方裁判所平成29年9月8日判決など)。

そして、高額の積載物の場合、予見可能性を理由に賠償額が争われることがありますが、1億円余りの高額の積載物(精密装置)の賠償を認めた裁判例があります(大阪地方裁判所平成23年12月7日判決)。
法律上、加害者において予見不可能な損害が発生した場合には、その賠償責任が否定されるものとされていますが、高額品を積載している車両もあり得るところ、積載物が高額であるというだけで予見可能性が否定されることにはならないのです。
一方で、積載量を超過して積載されていた積荷が破損した事案で、加害者は積載量オーバー分の損害を予見できなかったとして、賠償請求の一部を認めなかった裁判例があります(仙台地方裁判所平成8年1月26日判決)。

なお、携行品・積載物の破損により精神的苦痛を受けたとしても、原則として慰謝料を請求することはできません。
もっとも、裁判例には、ペットや墓石等が被害に遭った場合に、精神的苦痛に対する慰謝料の請求を認めたものがあります。

3 時価額の算定方法

時価額の算定は、購入価格から減価償却の方法により経過期間に応じて減額した金額を時価額とするのが一般的です。

そのため、購入価格・購入時期を裏付ける領収証やインターネット通販の購入履歴があれば、時価額の証明に役立ちます。
一方で、これらの資料がなければ、記憶をたどっておおよその購入価格・購入時期を主張せざるを得ませんが、客観性に乏しいため本来よりも低額の賠償しか受けられない可能性があります。

経過期間に応じた減額については、一般的に金属製のものは耐用年数が長く価値の低下が緩やかであり、布・ガラス製などのものは耐用年数が短く価値の低下が急であると言えるでしょう。
ただし、高価な楽器などの事案で、年数の経過により価値が減少するものではないとして、経過期間による減額が行われないこともあります(名古屋地方裁判所平成15年4月28日判決など)。

また、近年では、インターネットの中古品市場が発達していることから、同一品目で経過年数の近いものを検索し、時価額を主張・立証する方法も考えられます。