1 鼻の後遺障害の分類

交通事故によって、鼻に障害が生じることがあります。
鼻の後遺障害は、鼻自体が損傷したケースと、頭部に受けた強い衝撃が原因で鼻の機能に障害が生じるケースのいずれかに分類されます。

鼻の後遺障害として、後遺障害の等級表に定められているのは、第9級5号の「鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの」という欠損障害に関するもの1つだけです。
もっとも、後遺障害の認定実務では、鼻の欠損は認定できない場合でも、鼻の機能障害があると認定できる場合には、鼻の機能障害について後遺障害を認定しています。
また、鼻の機能に障害があるといえないケースであっても、鼻の欠損の程度によっては、鼻の欠損を外貌醜状であるととらえて、後遺障害を認定する場合もあります。

以上より、鼻に関連する後遺障害は、欠損障害、機能障害、外貌醜状の3つに分類されることとなります。

2 鼻の後遺障害の認定基準

(1)欠損障害

等級 認定基準(障害の程度)
9級5号 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの

 
「鼻を欠損」とは、鼻軟骨部の全部または大部分の欠損をいいます。
また、鼻の「機能に著しい障害を残すもの」とは、嗅覚の脱失(喪失)または鼻呼吸が困難であることをいいます。
これが認定されるためには、鼻の欠損の要件と機能に著しい障害を残すという要件の2つを満たす必要があります。

(2)機能障害

鼻の機能障害のみを残す場合、後遺障害の等級表には明記されていませんが、以下の等級の後遺障害の程度を有するものとして、実務上取り扱われています。

等級 認定基準(障害の程度)
12級相当 鼻呼吸が困難であること又は嗅覚の脱失
14級相当 嗅覚の減退

 
嗅覚の脱失と減退の区別については、T&Tオルファクトメーターという嗅覚検査キットを用いた基準嗅力検査によって、区別されます。

このT&Tオルファクトメーターによる基準嗅力検査というのは、5種類の臭い(花の香り、焦げたにおい、腐敗臭、果物の香り、糞臭)を8段階の濃度に分けて嗅いでもらうものです。
そして、それぞれの臭いについて、どの程度の臭いの濃度で、何の臭いかはわからないが臭いを感じるのはどの段階か(検知域値)、何の臭いか分かるのはどの段階か(認知域値)を検査します。

そのうえで、5種類の臭いについてそれぞれスコアを出し、その平均値を見て判断することとなります。
そのスコアが、以下の表の「中等症」及び「重症」に該当するスコアの場合は「嗅覚の減退」、「脱失」に該当するスコアの場合は「嗅覚の脱失」に該当するものと考えられています。

嗅覚域値平均値 嗅覚度(評価)
―1.0~1.0 1度(正常)
1.1~2.5 2度(軽症)
2.6~4.0 3度(中等症)
4.1~5.5 4度(重症)
5.6~ 5度(脱失)

 
大まかに表現すると、強い臭いでなければ何の臭いか認識することができない障害が残っている場合を「嗅覚の減退」、全く臭いを感じることが出来ない障害が残っている場合を「嗅覚の脱失」ととらえていただくのがよいと思います。

(3)外貌醜状

等級 認定基準(障害の程度)
7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
12級14号 外貌に醜状を残すもの

 
顔面に関する外貌醜状の認定にあたっては、それぞれ以下のように考えられています。
・「著しい醜状」(7級12号):鶏卵大面以上の瘢痕(傷跡)または10円銅貨大以上の組織陥凹
・「相当程度の醜状」(9級16号):長さが5㎝以上の線状痕
・「醜状」(12級14号):10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3㎝以上の線状痕

なお、鼻の欠損を外貌醜状ととらえる場合に、鼻以外の顔面部分にも瘢痕等がある場合には、鼻の欠損と当該別の瘢痕等を併せて、醜状の程度を判断しています。

(4)認定に関する補足説明

鼻の欠損については、その程度に応じて外貌醜状として認定されることとなっており、鼻の欠損と外貌醜状とは、それぞれの等級が一緒に認定されるのではなく、いずれか上位の等級が認定されることとなります。

そのため、鼻の欠損障害(9級5号)の認定基準を満たしているとしても、外貌に著しい醜状を残すものと認められる場合(7級12号)には、等級の高い7級12号が認定されることとなります。

3 鼻の後遺障害の等級認定のポイント

(1)鼻の欠損・外貌醜状に関連する点について

鼻の欠損・外貌醜状に関連して、適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、欠損や傷跡、手術痕等に関する写真を撮影し、保存しておく必要があります。
特に外貌醜状の認定がされるためには、傷跡等の大きさが分かるように写真を撮影すべきです。
傷跡の大きさが分かるようにするためには、定規やメジャーを用いて撮影するのがよいでしょう。

(2)鼻の機能障害に関連する点について

鼻の機能障害があると認定してもらうためには、事故によって嗅覚障害が生じていると認定を受ける必要があります。
そのため、嗅覚に障害が生じている可能性がある場合には、その治療や検査を後回しにすることなく、まずは早期に検査を受けることをお勧めいたします。
事故から相当期間経過した後に、嗅覚の異常を訴えた場合、事故と嗅覚の異常との因果関係が争われる可能性があります。

また、後遺障害の申請をするにあたって、鼻の機能障害が残存していることを認定してもらうためにも、適宜検査を受け、その検査結果を提出すべきです。
鼻の機能障害の認定のための検査としては、既にお話ししたT&Tオルファクトメーターという嗅覚検査キットを用いた基準嗅力検査の他、アリナミン静脈注射(「アリナミンF」を除く。)を用いた静脈性嗅覚検査の検査結果を使用したケースもあります。

4 鼻の後遺障害と逸失利益

後遺障害の認定がなされた場合、次のような損害項目の発生について検討する必要があります。
・後遺障害が残存していることによって負う精神的苦痛を補填するための後遺障害慰謝料。
・後遺障害が残存してしまったことによって、労働能力が減少し、これによって将来得られていたはずの収入が減ってしまったり、まったく失われてしまったりするという損害を補填するための後遺障害逸失利益。

鼻の欠損・醜状といった外見については、労働能力に直接影響がないとも考えることができます。
また、事務的な職業のように、嗅覚がないことによって支障が特段生じないような業種も存在します。
そのため、鼻の後遺障害が残ってしまった場合に、逸失利益が生じるか否かが争いになることがあります。

まず、鼻の欠損や外貌醜状に関しては、通常の就労者は、他者との直接的接触・交流の中で就労しているのであり、職業によってその頻度、重要性は相当程度異なるものの、外貌が印象を大きく左右する要素の一つであるといえます。
このことを踏まえ、具体的な職業や年齢を考慮した上で、逸失利益の有無が判断されています。
外貌が重要な要素を占める俳優、モデルの他、接客が業務の重要な部分を占める生命保険外交員や接客業について、逸失利益を認めた裁判例があります。

次に、鼻の嗅覚障害についても、具体的な職業や年齢などを考慮して具体的に判断されています。
例えば、料理人については、嗅覚が料理人の技術を発揮するうえで極めて重要な感覚の一つであることを踏まえて、後遺障害等級に対応する労働能力喪失率よりも高い割合で労働能力が失われたと認定した裁判例があります。
その他、幼稚園教諭や化学物質を扱う技術職の会社員などについても、その職種における実質的な弊害を考慮して、逸失利益を認めた裁判例があります。

5 弁護士にご相談ください

交通事故によって鼻を受傷した場合や、鼻に何らかの障害が生じている場合、これに対して適切に対応していく必要があります。

専門的な知識を有する弁護士に、まずはご相談いただくことをお勧めいたします。

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